最高裁判所第二小法廷 昭和31年(オ)238号 判決 1960年4月22日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人大橋光雄、同粟田吉雄の上告理由第一点および第三点について。
原判決の引用する大審院判例は昭和一三年の商法改正以前の事案に関するものであることは所論のとおりであるが、原判決は本件事案に対し右判例を適用して判示商慣習法等の存在を認めたものではなく、挙示の証拠により株券発行前の株式については申込金領収証(実質は株式払込金領収証)に名義書換用の白紙委任状を添付して判示認定期間転輾流通していたこと、および第三者が善意でかつ重大な過失なくしてこれを取得した場合は、会社に対する関係は別とし、その株式についての権利を取得するとの商慣習法ないし商慣習が存在する趣旨を認定判示しているのであつて、所論の判例は旧商法時代ではあるが前記同様の商慣習を認めていたことを附加説明したにすぎないのである。また商法二〇四条二項の明文の存する以上、所論善意取得の効力を認めるについても右規定による制限に服するのは当然であり、その反面右規定が存するからといつて、会社に対する関係を別とすれば、善意取得の効力を認むる商慣習法等の存在を許さないものとする法律上の理由はないから、会社其他の第三者に対抗出来ない善意取得なるものは認むべきでないとの所論は採用できない。
同第二点について。
所論は、原判決が上告裁判所である高等裁判所の判例と相反する判断をしたと主張するが、最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律(昭和二九年六月一日失効)が本件に適用のないことは明らかである(原審口頭弁論終結は昭和三〇年四月八日)から、所論は採用できない。
同第四点について。
論旨は、原判決が事故株式の取扱いと重複して善意取得の商慣習法ないし商慣習を認めたのは誤りであると主張するが、原審は、挙示の証拠により事故株式取扱の事情を説明して、右取扱いの存する一事は善意取得の商慣習法ないし商慣習の存在を肯定する支障とならない旨を判示しているのであつて、この判断は首肯できる。所論は採用できない。
同第五点について。
所論は、採証の違法をいうが、所論証言の外原審挙示の証拠によれば、所論善意取得に関する商慣習法ないし商慣習の存在を認めることができるから、原審の事実認定に所論の違法はない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、九三条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)